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2007.05.28

くますけと一緒に

新井素子 1991 大陸書房

久しぶりに読んだ新井素子。
主語の主格を表す助詞(「は」とか「が」)の欠如が気になった。相変わらずの台詞の多さも手伝って、ト書きを読んでいるようだ。

主人公の成美は、くまのぬいぐるみのくますけを手放せない子どもである。
ライナス症候群などと呼ばれることもあるが、そういったぬいぐるみや、大切ななにかを移行対象に持つ人は、別段に珍しくはない。
この小説に描かれるほど、異常な取り扱いをしなくてはならないものであるとも、私は思わない。

子どもは、子どもなりに世界を理解する。
世界に因果関係を持たせて、理不尽なことも、不可解なことも、子どもなりに理解しようとしている。
突然の喪失体験が避けられないとき、子どもはそこに必然的な理由がないことを理解できない。
その場合、子どもなりに解釈した結果、自分の所為だ、と、結論付けることがあるそうだ。
たとえば、大地震で両親が死んだのは、前日に自分が悪い子だった所為だ、と。
間違った推論が、子どもに生きていては申し訳ない気持ちをもたらすのである。

そういった子どもなりの世界の理解の仕方が、よく描かれていることに驚いた。
主人公は主人公なりに、精一杯、理不尽な世界に適応しようと努力してきた。
喧嘩するばかりの両親。両親から無条件に愛されているという実感を持てず、むしろ疎まれていることを意識し、そんな両親を実は愛していないかもしれない自分自身に対する不安を抑圧している。
しかも、両親は突然に失われた。それが悲しくない。しかも、自分が望んだから、両親は死んだのではないか。

こんなひどい子ども。
反省は自責になり、自責は自罰に繋がる。そうであるとしか、主人公にとっては考えられない。
自分の思いつかないことがあることがわからないのが、子どもなのだから。
こう言えばこう思われるのではないか、ああ言えばああ言われるのではないか。
先回りして考えて考えて、考えるだけの能力があるからこそ、余計に感じるまま思うがままの自然な反応が失われる。
主人公は、適応が難しい子どもではない。
過剰に適応してしまうことが、問題なのだ。

大人だって、そんなに器用ではなく、抑制が効くわけでもなく、いつもいつも上手に適応できるわけではない。
子どもだったら、上手にできなくて当たり前。自然じゃないことをしたら、無理があることが自然なのだ。
子どもは無条件に愛される権利と、嫌いな人を嫌う権利を持っている。
大人の心の中の子どもを抱きとめるような、よい物語だった。

ちなみに、私は人形は苦手。ぬいぐるみも、あまり擬人化したものは苦手。ふわふわふかふかは好きで、動物のぬいぐるみの衝動買いもするけれども、寝室には置かない。
視線を感じて苦手なのだ。
生きている猫の視線は大丈夫なんだけど。
この苦手、ぬいぐるみや人形の秘密の力を想像していた頃の残滓かも?

動き回るぬいぐるみの話として、川原泉『笑う大天使』の中の「オペラ座の怪人」を懐かしく想起した。これは涙なしには読めなかった。
また、大塚英志『人身御供論』は、かえってこのような移行対象の持つプラスの意義を指し示す点で、あわせて紹介しておきたい。

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