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2007.03.29

ためらいの倫理学:戦争・性・物語

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 内田 樹 2003 角川書店

この本が、哲学の本を再び読んでみたい欲求を引き起こした。
親密にしていた人に勧められて読んだ一冊であり、その人との諍いを深めた一冊だ。

最初のいくつかの短編の読みやすさ、軽妙な語り口と話題への親しさで、つい引き込まれた。
気軽に読めそうなエッセイ集かと思いきや、硬質な論文まで幅広く集められているところで、途中から裏切られた感もある。
論文は用語の面でわかりにくさを覚える人もいるかもしれないが、その硬質な文章が面白かったのだ。
特にカミュについて。頭のよい人はこういう風に読み解くのか、と感動した。「太陽がまぶしかったから」という台詞の意味を、ようやく悟ることができた気分だ。

穏健や寛容、中庸なものを意識して好む人と、それらに反感を持つ人の双方に勧めたい。
個人のうちでさえ情緒や思考は一枚岩ではなく、むしろ一つの信念や信条に貫かれて揺らがぬ人のほうがファナティックな危うさを持つ。世界はもともとあまりにも多様。個に優先する普遍があると仮定しても個が普遍や絶対に言及した時点で相対性を帯びる。
その複雑さを複雑なままにしておくこと、自分自身の中の矛盾さや中途半端さを許すことは、言い換えれば、よい対象が実は悪い対象でもあるという抑うつに耐えることでもある。

しかし、自分の中の空白、自己の抵抗が示す抑圧するものを、間断なく見据え続ける作業は、結構、きつい。
この作業は私の仕事にとっては当たり前に必要とされることであり、やりなれた作業でもある。が、プライベートでまで貫徹したいとは思わない。
私にこの作業を要求した人は、しかし、彼自身において実践していたのだろうか。彼が他者の複雑を許容してくれているとは、私には感じられなかったことを残念に思う。
彼との話し合いはすれ違い、お互いの断絶を確かめるばかりだった。彼はお互いに交わることのない断絶があるといい、だからこそ私はそこに橋を架けたいと願ってやまず。その彼の振りかざす、内田やレヴィナスを確かめたくて、本を読んだ。

レヴィナスという名前を意識したのも、本書の中だった。
この本をきっかけにして、積読の山の中からサルトルの『嘔吐』を引き出し、その山にカミュの『異邦人』を置いた。後者は昔読んだが、既に記憶の彼方だ。
ついで、レヴィナスそのものをもう少し知りたいと思った。彼の唱える解釈は妥当なものであろうか。彼をもっと知りたくて、寄り添いたくて、彼に通じる言葉で話したくて、伝えたくて。
実際に読んだのは、さしあたって、熊野純彦『レヴィナス入門』である。仕事の片手間に読むには、オリジナルは敷居が高かった。
倫理について、政治について、死について、愛について、最早、読んだこと、感じたこと、考えたことを話し合う相手はいない。

あの時、いささか、私もむきになった。そのことは反省材料である。
自分を全否定されたら、むきになる。そのことは自己弁護の言い訳である。
本当のところはといえば、レヴィナスなんかどうでもよくて、彼が他の女性と親密にしていた、この本のことでも、彼にとってはやっぱり私は後回しだったという、それが腹が立っただけなんだよねー。結局、わからなかっただろうなあ。
私もちっちゃいことだが、その後、いまだに内田さんの本は読む気になれない。ベストセラーも出ているが、彼と彼女のことを思い出して嫌になるので、どうにも手に取る気になれない。それがなければ、ほかの著書にも手を出していたことだろう。

コミュニケーションの修行の困難さに途方にくれながら、私はそれでもほとんど不可能な夢を見ていた。
夢を見て、見続けて、まだ見ているのかもしれない。
(2006.4.25)

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