夜は短し歩けよ乙女
表題にある第1章を『Sweet Blue Age』という短編集で読んだ。
癖のある文体がクセになる。大袈裟でしかつめらしく、パロディも織りこめられて、ユーモアたっぷりの文章だ。
混沌として狂騒の祝祭の気配に圧倒された。ひどく印象に残った。
その後、友人から本屋大賞にノミネートと聞く。
これもなにかの御縁でしょう。と、本屋さんの店頭で手に取った。
春の先斗町や木屋町界隈を夜を徹して行ったり来たり。
夏の下鴨納涼古本市。本作りに関わる人、本好きな人には殊更ぐっとくるのが、この章ではなかろうか。
秋も終わりの青春闇市たる学園祭。「11月祭」にも、大学ならではの伝説や伝統があるのだろうと思わせる。
そして、冬。クリスマスを前に浮き足立つ街で、ひとりある身はなんとせう。
この本を楽しむには、やはり、京都を知っているほうが有利だ。
京阪三条駅、中書島、六地蔵、糺ノ森、吉田南構内、出町柳駅、百万遍交差点、銀閣寺、哲学の道、京都市役所前広場、東鞍馬口通、北白川、今出川通、清和院御門、寺町通、京都市美術館、四条河原町など。
どちらかといえば東のほうで、やや北のほうに偏っているところが、かの大学に通う人の行動範囲をあぶりだしている。
今出川の進々堂まで出てきたときには、懐かしさにむせび泣きそうになった(大袈裟)。
京都で大学生活を送ったり、京都の大学生の生活を知っている人なら、尚よい。
著者が京都大学出身と知って大いに納得。存分に発揮されている感じがする。
といっても、本書は小説。エッセイでも、ルポでもない。
ひよこ豆のように小さな黒髪の乙女と、その後姿の世界的権威である理系院生の先輩とが、それぞれ一人称で交互に語り進む形式で、この二人の名前は出てこない。
後輩の女の子に一目ぼれし、追いかけて半年以上。外堀を埋めることに邁進するも、なかなか本丸に突撃できない、男の子の恋心が絶妙である。
古本市の神様や風邪の神様がいて、御都合主義をふるまう神様もいてくださる。なむなむ。
自称天狗もいるし、鯨飲する美女やパンツ総番長、詭弁論部など、出る人出る人クセが強い。李白さんにいたっては、人間ではなさそうな気配がする。
不思議なことが至極当然の顔をしてそこに在る。それとも、些細な日常も一大冒険にしてしまうのが、恋なのか。
四季には、それぞれの季節の祝祭がある。
巻き込まれて、一緒に笑って酔うがよし。
偽電気ブラン、私も味見してみたいぞー。
***
次は、同じ京大出身作者による、同じく京大生男子の片思いの物語をいかが?
→ 万城目学『鴨川ホルモー』
マンガ 『夜は短し歩けよ乙女(1)』も出ました。
« 図書館危機 | トップページ | ウィトゲンシュタイン入門 »
「小説(日本)」カテゴリの記事
- 紅霞後宮物語(12)(2021.02.19)
- 女たちの避難所(2021.02.06)
- 星をつなぐ手:桜風堂ものがたり(2021.01.17)
- フェオファーン聖譚曲(オラトリオ)op.3 鮮紅の階(2020.12.30)
- 神様のお膳:毎日食べたい江戸ごはん(2020.12.15)
「# 京都界隈」カテゴリの記事
- 蘇我の娘の古事記(2019.06.12)
- 黒猫の夜におやすみ:神戸元町レンタルキャット事件帖(2019.02.20)
- ばけもの好む中将7:花鎮めの舞(2018.05.30)
- あきない世傳 金と銀5 転流篇(2018.02.20)
- 罪の声(2017.06.21)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 夜は短し歩けよ乙女:
» 夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦 [粋な提案]
装画は中村佑介。装丁は高柳雅人(角川書店装丁室)。「野性時代」2005年9月号、2006年3、10、11月号初出。
クラブの後輩の黒髪の乙女に密かに想いを寄せる先輩は、ひたすらに彼女の姿を追い求めます。京都を舞... [続きを読む]
» 夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦 ["やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!]
夜は短し歩けよ乙女
この本は「徒然書店」の弥勒さん、「ひなたでゆるり」のリサさんの感想を見て読んでみました。ありがとうございました。
■やぎっちょ書評
それはもうオモチロイお話でした。書きたいことは塵が積もった山ほどたくさんあるのです。それはもう1500....... [続きを読む]
» 夜は短し歩けよ乙女(森見登美彦) [Bookworm]
絶賛っ!ではないですねぇ・・・。「本屋大賞」2位という結果は、私的に肯けないかな、という感じです。これはね、好き嫌いがハッキリ分かれるんじゃないのかな、やっぱり。デビュー作「太陽の塔」の方が面白かった。だからって、面白くないとかツマラナーイってことではないんだけどね。あ、私の気持ちとしては好きでも嫌いでもない、ってとこかなぁ。だって、好きでもあるし嫌いでもあるって感じなんだもん。「あんた、さっき”好き嫌いがハッキリ分かれる”って言ったばかりじゃん!」と突っ込まないで。おねがい(笑)なんとい...... [続きを読む]
» 「夜は短し歩けよ乙女」 森見登美彦 [読書とジャンプ]
ルックスも中身もこれ以上ないってくらいストライクだったとしても、パンツ総番長ってだけで100年の恋も冷めそうです。←軟弱モノ!せめて、せ―め―て―、靴下総番長であってくれれば!( ̄□ ̄;)!! あ、でも水虫は嫌だなあ。じゃあ、マフラー総番長で。汗疹くら...... [続きを読む]
» 夜は短し歩けよ乙女 〔森見登美彦〕 [まったり読書日記]
夜は短し歩けよ乙女著:森見登美彦出版社:角川書店定価:1575円livedoor BOOKS書誌データ / 書評を書く
≪内容≫
私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。
吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。
我なが...... [続きを読む]
香桑さん、こんばんは。
TBありがとうございます。
アップしてTB送ったのですが、反映されなかったみたいです(汗)。
今回は反映されてるといいのですが…。
奇想天外な出来事、個性的な人々、遊び心がいっぱいのお話でしたね。
京都のことをよくご存知でうらやましいです(笑)。
投稿: 藍色 | 2007.04.09 01:01
藍色さん、TB&コメントありがとうございます。
んー。なんだか、最近、TBがうまく送られてこないことが続いているようです。様子を見て、niftyにメールしてみようかと。
無視したようになってしまってすみません。
ただいま、「新釈 走れメロス」を読んでいます。
もうもうもう! 京都好きにはたまりませぬ。学生時代を京都で過ごしたものですから、懐かしくて。
森見さんの世界と、万城目さんの世界と、梨木さんの「家守綺譚」が、私の頭の中では地続きになっています。
投稿: 香桑@室長 | 2007.04.10 00:59
ちょっと辛口系なコメントになってしまったんで、TBを送ってよいものかかなり迷ったんだけど・・・^^;
気に染まない時は、拒否してくだされ。
この作品もだけれど、この著者の作品は京都に馴染みのある人にとっては堪らないんだろうなぁ、と思う。
そう思うと自分は”楽しみ半減”で読んでるような気がして口惜しいーっ!!のだ(笑)
でも。
なんだかんだ言いつつ他の作品にも手を伸ばしてるのは、アノ文体に毒されたせい?
クセになったのか^^;
現在メロス読書中。次はきつねが待っているのだ(笑)
投稿: すずな | 2007.05.25 09:55
すずなちゃん、ども。辛口ってほどじゃないと思いますよ、コメントの内容。
いろんな感想があって、当然至極だと思うのです。
メロスは、メロスが私は好き♪ ここまで、アッパーになると、文体がますますくせになりました。著者のブログにはまっています。
きつねは、満開の桜の短編のほうに近い感じですよ。感想を楽しみにしています。
投稿: 香桑@仕事中 | 2007.05.25 10:22
ボトメ拾ったのですが、偶然にも
「夜は短し歩けよ少女」
持ってます(*´∀`嬉)
投稿: 空 | 2008.02.07 17:11
↑すみません間違えました
「夜は短し歩けよ乙女」ですね;
投稿: 空 | 2008.02.07 17:14
空さん、コメントありがとう。
今、トップに若い人には不向きな本を置いていますが、ぼちぼち更新しています。
機会があれば、また遊びに来てくださいね。
投稿: 香桑@室長 | 2008.02.07 23:16
はじめまして。
私もこの本読みました♪
偽電気ブラン、味見してみたいですよね!!!
はげしく同意です。
TBさせていただきます。
投稿: kiiro | 2010.01.16 20:14
kiiroさん、こんにちは。はじめまして。コメント、ありがとうございます!
私にとっては、もりみーの初読書であり、いまだに「なむなむ」が合言葉になることがあります。
申し訳ないことに、TBが届いていないようです。プロバイダの相性の問題ではないかと思います。画面に反映されないことを気になさらずにいただきたく存じます。
投稿: 香桑@室長 | 2010.01.16 22:21