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2007.01.16

サンカの真実 三角寛の虚構

サンカの真実 三角寛の虚構  筒井功 2006 文春新書

この本は、もちろん、三角寛のサンカ論とその評価について、少なくともサンカについての一般的とされる知識をもって読んだほうが、興味深いことだろう。
残念ながら、私はサンカと呼ばれる人たちをあまり知らない。なんとなくのイメージするものはあるが、詳しくは知らない。三角の名前も、もしかしたら見たことはあるのかもしれないが、覚えがない。
見慣れない特殊な用語(それすらも後で批判の材料となるのだが)に戸惑ったり、一般的に三角寛の評価がどのようであるのかわからないことでピンと来ない点はあった。
その程度の知識であってしても、本書はスリリングで面白い本だった。

どこが面白いのか。その読み方はいくつかある。
が、なんといっても、一人の権威を虚言者であることを実証する過程が面白い。
その虚言者を信奉し、その虚言を基盤にして立脚してきた学問領域全体の意義を再検討することになる。
これを可能にしたのは、忍耐強く根気強い、綿密な情報収集と、充分な証拠がなければ断言を控える謙虚な姿勢である。
かえって、著者にして「くだらない」と言わしめる、おおもとの三角のコメントに好奇心を持つぐらい、手厳しいが説得力のある指摘が並ぶ。
紙幅の都合はあっただろうが、いっそ省略せずに三角を引用しつつ、虚偽を指摘してくれたほうが、原典を知らない一読者には親切だったと思う。

サンカという人々の実生活を知らない。そのため、わたしは知らないものに対しては、批判ができない。
へーほーふーんと、とりあえず受け容れることしかできない。知識や情報を学習する際には間違った姿勢ではないと思う。
小説を楽しむつもりで、現実と空想の区別をつけつつ、空想を楽しむことも問題はないと思う。
しかし、この素直な受け入れ態勢は、学問の世界では有害なことがある。信奉者や追随者になるだけでは、研究者の条件を満たさない。

著者は自分で好事家(アマチュア研究者)と名乗る、元記者である。
だからこそ、これだけの取材ができた。それにもかかわらず、これだけの調査ができた。
文献に信頼がおける場合や、文献研究ならば机上の、紙上の研究でよいかもしれないが、その文献の信頼度は裏付けの検証は必要になろう。

もしも三角が研究の手法や研究の姿勢さえ持っていれば、あるいはまったく違った成果をあげていたのかもしれない。
しかし、著者によると、三角のサンカ論は、ほとんど小説のような創作の世界であり、資料の写真もやらせだった。
これに立脚して論じれば、「三角寛のサンカ論」についての研究にはなりうるが、現実に即した「サンカ」についての研究にはなりえない。

ここにあるのは、民俗学に限定せず、フィールドワークの技法、社会学の姿勢への見直しである。学問全体の倫理の課題であるかもしれない。
形のないものを用いて、どうやって、学を成り立たせるのか。
三角が流行作家のままでいればよかったのだ。著者は、三角を二重に批判する。記者として、研究者として、三角のしたことは取材でも、研究でもないと却下する。
著者の地道な調査と丁寧な推論に頭が下がり、かつ、形のないものを扱うものとしての自制と反省を感じた。

大塚英志の小説を読んだあとだけに、こうして学問はたやすくうさんくさいものになってしまうのかと切なくなると同時に、小説に出てきたエピソードもみつけた。
「木島日記」の乞丐相に出てきた、「岩の坂のもらい子殺し事件」である。これは、新聞記者をしていた頃の三角が書いた、ほとんど虚報に近いものだと紹介されている。まさに偽史。
乞丐相とは随分変わった字面だと思って意味を調べずにいたが、その意味がわかって、あえて用いることに後味の悪さを感じた。

過去のおおらかさに憧れる人もいるかもしれないが、今、同じ轍を踏んでいけない。
この本は個人攻撃と紙一重であるが、まことに本書を読んでつらいのは、文献の信頼度を検討せずに安易に頼ってしまった後進であろう。
研究者たるもの、現物にあたれ、調査を怠るな。資料がないなら、調べればいい。専門家を名乗るからには手抜きはしちゃいけない。取材に手っ取り早い方法などない。
フィールドワークをすることの強みを思い知る思いである。

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