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2007.01.08

ロマンティックな狂気は存在するか

 春日武彦 2000 新潮OH!文庫

ただいま絶版中?
こんな良書がもったいない。

狂気と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。
果たして、狂気と呼べるものを、知っているのだろうか。

 ***

私が分裂病を狂気とほぼ同義としているのは、基本的にそれが状況や環境の変化だけでは治らないからである。つまり彼らが心の安静を得られるような世界は、仮想し得ない。その意味で、狂気は孤独のうちに精神内部が自律的に崩壊していくプロセスといえるかもしれず、不可逆的なニュアンスを帯びるだけ問題が深刻なのである。(p.258)

 ***

渡辺哲夫は〈狂気の原風景〉をてんかん発作に置いたが、春日武彦は統合失調症に置く。
前者から見ると後者は、統合失調症中心主義になるのだろうか。同じ病院に勤務している人たちで、これだけ論調が違うところが面白い。
とはいえ、再読してみると、本書にもちゃんとてんかん発作についても記述されていた。

私の中にも、精神病について、精神病院についての偏見があった。
精神病の王道中の王道というのも変かもしれないが、かつて分裂病といわれた病気について、私はよく知らず、自分のどこからが偏見であるのかもわからなかった。
教科書的な統合失調症の説明だけでは、実感としては、わからない。幻覚妄想状態であるとか、連合弛緩であるとか、人格の荒廃であるとか、どうしてそれが病気であると認識できないのであるのかとか、腑に落ちなかったときに、一番参考になったのが、本書であった。
精神疾患の診断という繊細な営為において、精神科医の考え方の一端を知ることができたのも、本書である。
ここにある病気についての記述は具体的で、現実的で、臨床的で、精神疾患を聖別して幻想化することを戒める、私の参考書の一つになった。

精神病は、無垢の魂の証明でもなければ、精神の可能性を示す超越的な存在でもない。妄想は理性(文化や歴史、常識などと言い換えてもよい)の枠組みに縛られない、自由な精神活動の発露ではない。創造性や革命性を求める根性を、さもしいと著者は判じる。あらゆる突飛なストーリーに説明を与える、万能な材料ではありえない。
精神病院も、安易に辻褄あわせをさせる便利な装置や、どんなにありえないものでもあるに違いない万能な舞台装置でもない。
文学的な好奇心から都市伝説まで、狂気は貧弱で安直なファンタジーに説得力を与える道具として用いられてきた。

事例としてあげてある事件や噂話は、少々古びたかもしれないが、根幹の解説はまったく有効であると思う。
精神病/精神病院の都市伝説の一例として「口裂け女」が出てくるが、私が子どもの頃に聞いたヴァージョンも、かなり初期の類型になるようだ。三人姉妹だとか、精神病院だとか、そういう枝葉の設定はなかった。その時期、関東から関西に引越しをして、地方によってヴァリエーションがあることに驚いたことも憶えている。おそらく、物語の伝播に時差もあったのだろう。
ついでに、もう一つ。私の聞いた都市伝説では、迎えに来るのは、黄色い救急車じゃなくて、緑の救急車だった気がする。これも、カラー・ヴァリエーションがあるのだろうか?

身近に病気を患う人と会ってから、私は他人事の綺麗事のように語ることができない。
不必要な不安や恐怖を喚起し、差別をするのも問題であるが、過剰な賛美や憧憬を示すのもおかしい。
病気の苦痛や、病気による損失を無視して、妄想を持っているのは、一体、誰だ?

春日という人は、「ぶっちゃけたところ」を語るのが上手いと思う。
皮肉っぽい口調なので、人によっては違和感や抵抗感を持つかもしれない。
その口調を安全策として、本音に近いところを率直に述べているように思う。
でいないことはできないとざっくばらんに語るところが、読みやすい上に、私などはそこに信頼を感じるのであるが。
病気を治療の対象として、ただ病気として取り扱う本書を読むと、ほっとするなあ。

 ***

「狂気」の多様性に注意せよ、
蓋然性につけこんだ拡大解釈に注意せよ、
記号化され形骸化した「狂気」に注意せよ(p.275)

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