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2006.12.05

西欧精神医学背景史

西欧精神医学背景史  中井久夫 1999 みすず書房

くらくらするほど情報量が膨大で、一読した限りでは記憶に収まらない。
大学の通年の講義の教科書になりそうだというのが第一印象であるが、一人の著者によるだけあって、一貫した思想があるのは教科書的ではない。
硬質で、格式のある文体。包括的で網羅的。
著者の連想は自由に広がり、教養を試される。
知的にすぎて、私が読者として役不足の感あり。この知と戯れる余裕は到底なく、文字をたどるのが精一杯。読みおおせるのに時間がかかった。
さすが、みすず書房。と、うなる一冊だった。

本文は、詳細を省いて、地理上のヨーロッパを中心に、古代ギリシャからの歴史をひもとく。
詳細は、本文の三分の一ほどに相当するページの注を読むべきだ。その点、すぐれた索引としても有効。
数々の水脈と支流のダイナミズムを示す数多くの図表も、全体像の把握を助けてくれるだろう。

1970年代のコンテクストの上に書いたと著者が後書きしているが、権威や権力への敏感さ、ナショナリズムを見据えるまなざしの強さに驚いた。
精神医学史であると同時に、精神医学という視座から照射された背景、すなわち、ヨーロッパ思想史や宗教史であり、政治史として読むことにも充分に耐える。
社会の病気の発見、病者の社会からの疎外を語るためには、社会を語らざるをえない。

魔女狩りという現象、病者の管理と国家の体制、辺縁に残存する文化と辺縁に登場する治療文化、公衆の見世物/遮蔽性と退院率、無垢なる少女の神話と近代的自我の神話など。
固有名詞の多さに圧倒されたけれども、特にフロイト以前が興味深く、著者の造詣の深さ、興味の広さに感嘆した。
なお、中井は本書では「フロイトはいまだ歴史に属していない」ため全面的にとりあげないとしている。
こういった著者の歴史に対する感覚の鋭敏さを味わうのも一興である。

近代になると、ヨーロッパとの関わりにおいて日本の幕末以降の、近代的自我の追求と挫折の叙述も興味深かった。
他の文化、キリスト教以外の宗教との比較を通して、ヨーロッパなる現象、西欧らしさを抽出することにも、著者は手抜かりない。

また、キリスト教と意識概念など、1999年の追記もあわせて収録されており、短いながらも示唆に富む。

歴史を読むことは、常識を疑うことに通じる。
現代の感覚でもって過去を読むことは、読み直しの作業であって、読むことではない。
過去の、その時点でのものの見方をたどり、過去の体験を読むことが、過去を読むことのように思う。
すると、現在の自分の常識を相対化することになる。その作業によって、実は常識と考えているものには、自己に固有な部分があることを意識される。
通時的な変化のみならず、共時的な差異もあると、寛容の素地を作り、共感を独善から掬う基盤をなすのではないだろうか。

精神医学への理解を深めるためよりも、ヨーロッパという背景への理解を深めるために、勧めたい。

最後に、印象的だった一箇所を下記に引用する。

 ***

「この海峡に架橋する技術はまだない」と技術者はいいうる。しかし癌や分裂病を治療する技術がまだないから二〇〇年待つことを病者とその家族に要請することはできない。公衆のまなざしが医師と医学を要請した。医学はつねにとりあえずの技術であったが、公衆はそれに反した幻想を持たざるをえず、医師もまたその幻想に囚われた。(p.92)

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