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2006.11.24

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート 森絵都 2006 文藝春秋

135回直木賞受賞した一冊。「愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を、今日も思っている」という一文が帯に印字されている。
賞には興味がないが、この作者の本を一冊は読んでいるし、読書家の知り合いから勧められてもいた。帯の一文は、痛くて、惹かれる。
夏のイベントの帰り、空港の本屋で立ち読みし、購入を決めた。
読み終えてしばらく経つが、感想を書くのが難しい。

6つの短編が納められている。1,2,6の主人公は女性、3~5の主人公は男性で、大体、この二群で作風が異なる印象を受ける。
主人公が男性の3編は、どことなくユーモラスで、『ショートトリップ』に納められた短編のように、人を食ったような笑いの要素がある。3「守護神」と5「ジェネレーションX」はそんな感じがした。
4「鐘の音」で顕著になるが、これらの3編は、思春期から青年期にかけての誇大な自己愛、はちきれそうな誇大感の思い出だ。その時代を過ぎ去ったものが振り返るノスタルジー。

どちらかといえば、私は女性が主人公の3編のほうが、印象深かったし、より趣味に合う。
立ち読みしたのは1「器を探して」。『ショートトリップ』は中学生を対象に書かれたものであるけれども、この短編は30代の独身女性を主人公に据えて、結婚と仕事のどちらかを選択を迫らせる。この設定に私は釣られた。斉藤綾子を連想する色っぽい選択肢を主人公に選ばせるわけであるが、森絵都のほうが上品におさめている感がある。
全体がこの路線かと思っていた私を上手に裏切ってくれたのが、2「犬の散歩」だ。これは、うまい。静かに揺さぶる。日常の中で見殺しにしてきたものへの罪悪感や何もしない自分への羞恥と、日常の中の小さな出会いの喜びや感動と。先々への不安と葛藤。
生きることと死ぬこと。私は、2「犬の散歩」と6「風に舞いあがるビニールシート」を対に感じる。

表題作が、やはり全体の中でずば抜けて印象的だった。この一作だけでも読む価値がある。
一番生身のやわらかい部分は誰にも触れさせないような男たちを知っている。一人にあらず。
恋する女の例に漏れず、我を失うほど一人の男に執着してしまったことなんて、よく体験しているわけで。私だけじゃないような気もするし。
燃えたぎる情熱も、染みわたる愛情も、この世から消えてなくなったも同然の圧倒的な不在の前には術なく破れ去っていくという描写の、迫り来る暗さが、たまらなくぐっと来た。
身に覚えがありすぎるぅ。と自分と重ね合わせるのが申し訳ないほど、主人公が過ごす時間は切ない。
……参りましたorz

そして、平和を噛み締める最後。
この感覚も知っている、と思いました。
野外のライブで花火を見上げたときの気持ちを思い出しました。

もがきながら、できることをするしかない、当たり前の日常を生きるということ。
時には日常が揺らぎ、過去や未来が影を落とすとしても、また再び、得も損も落ちていない不毛な荒野をひた歩く一歩を踏み出す力強さを描く良書でした。
(2006.9.18)

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