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2006.11.23

レインツリーの国

レインツリーの国 有川浩 2006 新潮社

……ずたぼろ……orz

だめです。やられました。
一番新しい傷の上、どまんなかにグサグサッと来た感じ。
2ヶ月経って、少しはましになったつもりだったけれども、まだ触れられるのは痛かったみたい。

ネット上の出会い。
共通点から盛り上がる会話。
縮まる心理的な距離感。
傾き、募る、気持ち。
伸とひとみの日を置かずに応酬されるメールの端々に、もう既に、じんわりと涙腺を刺激される。

こんなときがあったんだよなー、と個人的な体験を思い出す。
楽しくて嬉しくて幸せなとき。メールを送ってから返事が来るまでどきどきして、メールが来たら来たで中身を読むまでどきどきして。
あんまり急いで返事を出したら、なんと思われるだろうか。あんまり遅くに返事を出したら、なんと思われるだろうか。
そんなことまで気にしながら、その日のうちに返事が来れば、また喜び。
同じテレビを見ながら、チャットのような頻度で携帯メールを送り合い、夜更かしして。
他愛がなければないほど、貴重だったと思う。とても懐かしくて、泣きたくなった。

身を引く美学、みたいなことを、考えてみる。
自分が相手を苦しめるなら、自分なんか消えてしまったほうがいい。
自分が相手を傷つけるなら、疲れさせるなら、損をさせてしまうなら、私なんかいらない。
好きな人の重荷になりたくない。足枷になりたくない。弱点になりたくない。邪魔になりたくない。負担になんかなりたくない。
好きだからこそ。自分が消えて、相手が幸せでいてくれるのなら、それでいい。

そういう身を引くという行為が、この本の中で繰り返されるテーマの一つだ。
ひとみが前半では女性の気持ちとして肯定するが、後半では伸がこの境地を示す。
前半では伸は身を引くという発想に反論し、後半でひとみのほうから応じてみせる。
この前半と後半で二人の役割が入れ替わるほど、コミュニケーションを深めて、お互いの考えを取り入れていく、「二人」という単位を作り上げていく物語だ。

なんで、私が美学という言葉を遣ったかというと、好きな人から敢えて身を引く、というのは、やっぱり、やせ我慢とか、見栄っ張りとか、格好付けとか、そういう要素が豊富な行為だから。
本書の出だしをふまえて、これを孤独の美学の女性的な類型としたら、男性的な類型をふられて黙ってやせ我慢して格好つけることかな?…なんて、二元論の乱暴を承知で区分してみた。
物語が上出来ならば、この際、男女はどうでもいい。
そういうジェンダーロールも、聴覚障害の問題と一緒に、見事に乗り越えていくからだ。

ひとみの気持ちにも共感しながらも、私はどっちかというと伸サイドで読んだ。
最初から分かるはずのないものを「分からないから言うても無駄」で逃げられたら、話をしたい私は置いてきぼり。
ほんと、そう言えればよかった。そんな風な切り替えしが思いつくところ、小説家は巧みだなあ。 無駄と言われて、私はそこから動けなくなった。
傷を振りかざして、特権みたいに傷ついた顔をされるのも、ほんとに癪に障るもの。
その顔に、私は傷ついたんだよ。本のあちこちにアンダーラインを引いて、送り付けたいほどの気持ちになった。

物語の中では、主人公達は切れかけた糸を繋ぎなおす。忍耐強く、つむぎなおし、よりなおしていく。
この作業は、どちらかが思っているだけじゃだめなんだよ。繋いでいきたいと双方が願っていないと、試みないと、努めないと。身を引いてもいいぐらいに好きだから、本当は一緒に幸せになりたい。
将来までずっと幸せかどうかはわからない。けれども、今現在は幸せだと謳われる。

私は懐かしい気持ちと羨ましい気持ちに駆られたけれど、ほっとするようなハッピーエンドでよかった。
社会人になってしばらく経った頃に、子どものころのようなどきどきやわくわくする胸の高まりを思い出す、素敵な恋愛小説でした。

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コメント

こんにちは!
恋愛をしている時の気持ちがリアルに伝わってきましたよね。
「図書館危機」のほうにTBを飛ばしてしまったようで、すみませんでした。しなおしましたので、よろしくお願いします。

花さん、こんばんは。わざわざありがとうございます!
こんな恋愛は、年を取るほどに縁遠くなりました。
この本を読んで、時には青春菌を取り戻すのも素敵ですね。

この本も、よかったですよねぇ~。
王道恋愛小説だから安心して読めるんだけど、経過一つ一つにドキドキして。
私もどちらかというと、伸サイドで読みました。なんかひとみちゃんは、重苦しくて。開き直れない屈折も分からなくもないけど、そこへ逃げ込みすぎでは?って感じたので。
それでも、最後に二人が向き合えたのは、ホントに良かったぁ!

この本もよかったですね!
ひとみちゃんの気持ちがわかる、とまでは言えないです。言うと、傲慢な気がしてしまうのです。聴覚障害の問題は、『図書館危機』よりもこなれている印象を受けました。
最後も素敵で、有川作品を未読の人に勧めやすいですね。
そういえば、ラジオドラマにもなった本でした。

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