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2006.11.23

海の底(単行本)

海の底 有川浩 2005 メディアワークス

おっちゃん達がかっこいい!!

……と書き始めた感想が消えてしまい、気を取り直すためにも、本を読み直した。
面白い、だけには留まらないところが、有川さんらしい。
設定の奇抜さを忘れるほど、個人の描写、社会の描写が巧みでリアル。
私は、この本、好きだなあ。『空の中』よりも、重苦しさがあるけれども、こちらの方が好き。有川作品で最初に読んだ 『図書館戦争』を抜いたかも。
メディアワークス、いい本を出すなあ、と思った。本を読むって、やっぱり面白い。

物語の舞台となるのは、横須賀、海自の潜水艦内である。
だが、敵との戦闘を強いられるのは、自衛隊ではない。機動隊である。
実際的な戦闘からは切り離された潜水艦の内側では、そこに避難した自衛官二人と子ども達の物語がある。女性ならではの視線で描かれる課題や、地域や教育の問題など、それぞれが自らの問題と向き合い、成長していく。
登場人物も多く、いろんな要素を盛り込みながらも、散漫にならずに、最後までぐいぐいと引っ張る力を持つ。
たった6日間の物語とは思えないほど、いや、だからこその、濃密さ。

大人は大人、子どもは子どもと線を引く。
以前、知人から「年齢で線を引くことは論的根拠のない差別ではないか」と議論を吹きかけられたとき、私は明確に反論することができなかった。
今でも私は私の感覚でしか語れないけれども、やはり、大人は大人であれと線を引くほうが好きだ。自分が子どもであるときに、子どもであるからと許され、守られてきたのだから、同じように、今は私が子どもにしてあげたい大人の振る舞いというものがある。
「大人の荷物は子供は気にしなくていい」と語る作者の感覚が好きだ。「子供であるということは一体何て楽なんだろう」と、子どもの世界から脱しようとしつつある子どもの成長を語らせる。
子ども扱いされることの悔しさや、ばかな子どもには戻れない面倒臭さも書き抜いてあるところは、この本を中学生ぐらいの人たちにも読んでもらいたいと思う。

「有事の人材は平時にはいびつ」と言われる、夏木&冬原の自衛官二人は、もちろん格好よい。図書館シリーズの堂上&小牧の入隊したて、という感じだ。
小説だから顔かたちはわからないのだけれども、有川のキャラは、言動や態度が格好よいのだ。考え方や生き方がよい。私のツボ、押しまくり。
熱血だけど、正義漢にはならないんだよなあ。現実や常識を踏み外さない健全さが、安心して惚れ込める感じ。
やるべきことをやる人、仕事に真剣に取り組む人、義務を感情で投げ出さない人、そういう真摯で余裕のある大人が、大好きなのだ。自分がそうありたいから。

更に格好よいのが、機動隊の面々。熱く、潔く、頼もしい。努力に裏打ちされた自信、同情を許さぬ仕事へのプライド。くーっ、たまらんね。
滝野、明石、我孫子、豊岡、茨木、中津、芦屋、住之江、守口……と、警察の登場人物の名前は関西の地名が並ぶので、時折、舞台が横須賀であることを忘れそうになる。
そもそも、横須賀の景色が思い浮かばず、ともすれば横浜のイメージで代用していた私であるが……。
烏丸と明石の悪代官&廻船問屋のように息のあった二人もよい。際立って合理的で現実的、有能だが要領が悪い。彼らも平時にはいびつな人材である。

最終的に事態を解決するのは自衛隊(&米軍)であるが、それまで、自衛隊は事態を解決する装備がありながらも、内心忸怩として見守る他ない。
出番の少ない自衛隊の中では、福原海将がかなりのツボ。

こうしてみると、私は軍隊という文化は好ましく感じているようだ。
凝集性や斉一性の高さを求められる組織の中の適応性の低い有能な人材であるとか、平時にはいびつな有事の人材を保有できる鷹揚な上司であるとか、自覚の高い専門集団であるとか、筋肉だるまな羊さん達であるとか、戦闘をしない軍隊には、魅力を認める。
他方で、軍隊の目的であり仕事である戦闘行為は嫌いだ。断固として、嫌いだ。
力はあるけれども無闇に振るわない姿勢が、私は好きだ。人間の持つ攻撃性をどう管理するのか、これは大きな課題だ。

この本で、物足りなかったのは、「俺たちはそういう国の役人だ」という台詞を、機動隊だけではなく、自衛隊にも言ってもらいたかった点である。
有川は絶妙のバランスでもって自衛隊礼賛や軍隊礼賛には陥ってはいないと思う。最後は日常に戻るところで、それと知れる。
政府の日和見主義、省庁間の反目や縄張り意識、マスコミの余計な茶々、無神経な報道、他者を責めることが大好きな世論。
現にそこに問題はあるのに、かけはなれたところで堂々巡りをして、問題への直面を回避し、解決から逃避しているだけじゃねーの?と言いたくなるような現実は、小説の中だけではなく、そこかしこにある。

しかし、私は、政府は優柔不断でよいと思っている。
この国が即断即決即実行するときは、充分に議論されたら反論されるのがわかっているような、やましくてろくでもないことを企てている時だと、相場が決まっているのだから。
災害救助は素早くてもいいかもしれんけど、法律からいじくるときは慎重に慎重を重ねて余りある。
もどかしくて苛立たしいこともあるかもしれないが、政府はそういうものでいいのではないだろうか。
軍隊という大きな力を使うときには、それぐらい慎重であってもいいのではないだろうか。決して、無闇に、安易に振るうものではない。

なにしろ、最初から陸自&海自を投入すると、この物語は成り立たなくなる。

実は、最後まで顔を出さなかった(?)軍事オタクな人たちが、一番格好よいのかも。
(2006.11.14)

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コメント

こんばんは。
有川さんの作品の中から「塩の街」をこの間親戚の中学生にすすめてみました。
歪んだ子どもの象徴として圭介が登場しますが、子どもたちを歪めているのは結局大人なんですよね。
「生きようとする意思は何より強い!」私の好きな言葉です。
有川さんは生きるということに向き合っている世界をいつも描いていると思います。

らぶほんさん、こんばんは。コメント、ありがとうございます。
圭介をただ単に「嫌なヤツ」で終わらせなかった有川さんの描き方に好感を持ちました。
生きている限り、可能性はいつもそこにある。希望と言い換えてもいいかもしれません。
中学生さん、楽しんでくれるといいですね♪

『空の中』や『図書館戦争シリーズ』とはまた違った展開で、非常に楽しめましたね。
有川さんの作品は、スピードスリルや恋愛だけでなく、社会的な問題などを、さりげなく提起しているところがすごいと思います。私のように萌え叫びながらな読者でも、その問題提起に触れ、少々は思考しますから。
かと言って、それだけが重くなることもなく、良いバランスで物語に織り込まれていく構成力には、ホントに目を見張りますね。

水無月・Rさん。
『海の底』はとても濃密な小説でした。
娯楽なんだけれども、社会の問題を考えさせる。だけど、説教臭くならない。そのあたりのバランス感覚は、有川さんはずば抜けている感じがします。
その上、登場人物がのきなみかっこいいので、叫びまくることになるんですが。笑

はじめまして。香です。有川さんの作品は図書館シリーズではまってしまいました。私もこっちのほうが好きですね。圭介たちと同じくらいの年で夏木たちにも共感できたし、他の子供達にも(特に思春期真っ只中の圭介たち)共感できました。
さらっと大事なことを教えてくれることも、有川さんの作品のいいところですよね。

香さん、はじめまして。コメント、ありがとうございます。
コメントをいただいて、この本を再読したくなりました。
何度読んでも、その都度の発見があり、感動があります。

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