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香桑の近況

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2017.10.12

百貨の魔法

村山早紀 2017 ポプラ社

なにげない情景描写に、思わず目が潤む。
なんでこんなに、感情が揺さぶられてしまうのか。
そういう心を動かす魔法の書がこの一冊だ。

なんでこう、琴線が共鳴を始めるのだろう。そう考えながら読んでいたとき、ふっと気づいた。
村山さんの物語には、色と音と匂いに満ちている。
綺麗な色合いや、きらきらと輝く光。太陽の光も、人工の光も、そこを照らす。
人々のざわめきや子どもたちの嬌声、空間を包む音楽に、鼻歌。
食べ物のにおいや香水のにおい。
そんな五感に訴えかけてくる彩がとても豊かなのだ。
そういう刺激の一つ一つに無意識が揺さぶられる。
たまらなく郷愁がかきたてられるのだ。

戦争時に町の半分が空襲にあって焼けてしまった風早の町。
孤児として生き延びた人たちが大人となり、商店街を立ち上げた。
星野百貨店は創業50年。町の復興の中心、経済の中心、文化の中心だった。
時が流れて、建物は古さを感じられるようになり、こじんまりとして見られるようになった。
百貨店産業にとって厳しい現代において、ゆるやかに沈もうとする大船のような不安感と寂寥感が随所に漂っている。
しかし、沈んでしまったわけではない。
そこで人々を笑顔にしようと働く人々がおり、小さな出会いやささやかな奇跡が生まれている。
どこか郷愁を誘う景色や気配に、笑顔で働く人々のそれぞれが抱える事情に、心を揺さぶられる。

成長の物語ではない。
しかし、次世代の成長を見守る物語である。
代替わりの物語と言ってもよい。
苦しい時代を生き延びて、今の日本を作ってきた人たちからの、祈りと願いと励ましがこめられている。
それは、明日を信じるための魔法である。
もう一度、明日を信じられるようになってほしいという魔法である。

京都の高島屋と福岡の岩田屋。この二つを思い出した。
私は学生時代、お中元とお歳暮の間だけ、百貨店でアルバイトをしていた。
音楽が流れる中、開店時にスタッフが一列に並んで、いらっしゃいませと出迎える風景を久しぶりに思い出した。
自分は主に包装をしていたわけだが、その時に、正社員の男性から言い聞かされたことがある。
テナント店の包装や紙袋ではなく、百貨店の包装紙や紙袋を使うことで、その百貨店でわざわざ購入したという付加価値がつくんだ、ということだった。
百貨店のプライドを感じた一言として、何年経っても忘れられない。

更に幼い時の記憶であるのか、家族から聞かされた話が混じっているのか。
屋上に小さな遊園地があり、最上階にフードコートがあり、家族が休みにちょっとおめかししてお出かけしに行く場所としての、地方の百貨店の景色もなんとなく私の中に残っている。
大手の百貨店チェーンの傘下となってしまったが、地元の百貨店の名前を残すその店舗は、今も私にとってはお出かけすることが楽しみな場所だ。
高い天井の真新しい建物になる前の、懐かしい姿をぼんやりと思い描きながら、星野百貨店の中を歩き回った。

何気ないはずの社員食堂の描写に泣いてしまったことには、自分でも驚いた。
その職場で働けることは、なんて幸せなことだろう。
働く人々が、働く場所に愛情を抱くことができることは幸せだ。
そんな場所は、客からも愛される場所になることが間違いない。
働く人にとっても、客にとっても、そこは平和であり、真心であり、希望であり、癒しであり、我が家である。
読み手にとっても、この本は、きっと、平和であり、真心であり、希望であり、癒しであり、我が家となる。
傷つき疲れた心に、明日を信じる勇気を思い出させてくれる魔法の本だ。

 *****

ここから先は、今、この時にこの本を読めたこと、その奇遇と僥倖について、自分のために書いておきたいことであるから、折りたたむことにする。

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2017.10.05

御松茸騒動

朝井まかて 2017 徳間時代小説文庫 シンプルな表紙が印象的だ。 松茸が一本と、すだちが一つ。 そして、このタイトル。 気になって気になって、タイトル買いした本だ。 江戸詰めの尾張藩士の小四郎。 小さい時から算術が得意で、同僚や上司のやる気のない仕事ぶりに不満たらたら。 その態度が煙たがられて、国元に異動させられてしまう。 松茸不作の原因を探れと、御松茸同心なる職を拝命する。 腐りそうである。 ...

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2017.09.26

ころころ手鞠ずし:居酒屋ぜんや3

坂井希久子 2017 時代小説文庫 旅先の本屋さんで偶然見つけた3冊目。 ついに例の事件が動き出す。 あの人の行方もわかる。 今回の私の一押しの料理は、なんといっても蒸し蕎麦。 なんじゃそりゃな話がとても楽しい。 美味しそうなのは表題の手鞠ずし、食べてみたくなったのはお雑炊であるが、インパクトの面では蒸し蕎麦。 とても遊び心のきいた場面となっている。 職場で腹の虫と笑いをこらえながらの読書となった...

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2017.09.21

紅霞後宮物語 第零幕:2、運命の胎動

雪村花菜 2017 富士見L文庫 ようやく文林が登場し、未来の夫婦が出会う巻。 小玉が順調に軍のなかで活躍し、頭角を現しつつある時期の物語である。 なんでこの人、皇后になったんだろう?という戸惑うことになった。 こんなに軍人としての適性を発揮していくのに、なんで後宮にいなければならないのか。 本編の第一巻の主人公の戸惑いを、今になって私が感じた。 と、同時に、文林よ、彼女をくれぐれも大事にするんだ...

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2017.09.05

砂漠の歌姫

村山早紀 2006 軽装版偕成社ポッシュ 世界の美しさと人の愚かさを、優しく包み込むような物語だ。 子ども向けに描かれた本であるが、だからこその語り掛けの穏やかさが心地よい。 砂漠の中の古い歴史を持つ町が舞台だ。 その大陸の長い歴史を背景に、少女たちの冒険が始まる。 戦う女の子を応援をしたい。 そんな気持ちで次に手に取ったのが、この本だ。 ファンタジーを読みたい気持ちに火が付いてようやく読みはじめ...

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2017.08.29

レッド・クイーン

V・エイヴヤード 2017 ハーパーBOOKS これは面白い。 レッドとシルバーの二つの階級に分かれた世界。 レッドは働いたり、戦うことを求められる下層の階級で、赤い血を流す普通の人間。18歳になって職業についていないときには、徴兵されて5年の軍役につくことになっている。 シルバーは恐怖でレッドを押さえつける上層の階級で、銀色の血液が流れている。王侯貴族から、町の中に住む市民層まで。彼らは冷酷であ...

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2017.08.18

わたしのげぼく

上野そら 2017 アルファポリス 猫と別れた記憶のある人、猫と長い時間を過ごしてきた人には、たまらない一冊だ。 私の友人知人たちで猫好きな人たちを、巻き込みたくなる涙腺破壊力だ。 猫じゃなくてもいい。犬でもいい。うさぎでもいい。鳥でもいい。 人ではない家族とかつて一緒に住んでいたことのある人たちに贈りたい。 主人公は表紙の偉そうな猫さん。ハチワレのオス猫さん。 飼い主家族の少年を「げぼく」と呼び...

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おじいちゃんとパン

たな 2017 パイインターナショナル 祖父と孫の微笑ましいやりとりに、ほっこり。 おじいちゃん特製の美味しそうなトースト、にっこり 途中、ぎょっとして、びっくり。 ささやかで穏やかで優しい気持ちになれるおいしそうな絵本。 Twitterで好評だったので購入してみたが、あたりだったと思う。 ここの出版社、印刷が綺麗なので、そこもじっくり見てもらいたいポイント。

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2017.08.16

いじめのある世界に生きる君たちへ:いじめられっ子だった精神科医の贈る言葉

中井久夫 2016 中央公論新社 いじめには「立場の入れ替え」がない。 いじめの進行過程は、「孤立化」「無力化」「透明化」の三段階がある。 わかりやすい説明は精神科医の中井久夫さん、絵はいわさきちひろさん。 絵本のような外見で、心理や教育の専門家でなくとも読みやすく、わかりやすい一冊となっている。 小学校高学年でも読めるようにと配慮されているとのこと。 解説というと、上から目線のようだが、著者自身...

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2017.07.22

桶川ストーカー殺人事件:遺言

清水 潔 2004 新潮文庫 ストーカー。 その言葉が人口に膾炙し、その被害の深刻さが知られるようになったのは、この事件が契機だったと思う。 この本を読むことで、面白おかしく描かれがちだったつきまとい被害が、どれだけ被害者と被害者の家族を苦しめるものであったか、わかる。 警察が怠慢をしたときにどんなことになってしまうかがわかる。マスコミが不誠実な報道をすると、被害者は二重三重の被害をさらに受けるこ...

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